我々は限られた時間と環境と人員の中で、
利用者に様々な場面で介助・支援に入っています。
そして利用者にも様々な人がおり、
体格が良すぎる人、
拘縮が強い人、
気難しい人、
悲観的になりやすい人など、
その人に合わせた対応を求められます。
時には、
「これ、もう無理なんじゃない?」
と思うこともあると思います。
そして、
食事形態を下げる、
二人で移乗する、
個浴(一般浴)から特浴にする
トイレからオムツにするなど、
対応の変更を迫られる場面もあるでしょう。
それは個々の利用者によるのでここでは触れませんが、
対応を変える前に、
もしかしたら、ちょっとした介助の工夫で職員の負担が減る場合もあるかもしれませんよ。
私の実体験を元に書いていきます。
体格の良い全介助の利用者の介助方法を分析し再検討したら二人介助が一人介助で済んだケース
体格が良く(どういう体格かは察して下さい)、全介助の男性。自分で動かせるのはかろうじて腕と首くらい。
勿論立つ事なんてできない。
でも背もたれがあれば座位はとれるので、
離床し食事をとっている。
移乗、大変ですよね。
こういう人の移乗は大体二人介助で対応するんじゃないでしょうか。
でも昨今の人手不足の現状。
特にユニット型では一人仕事が多く、移乗のたびに他のユニットから手を借りるのは大変だし、
空になったユニットで事故が起こる可能性もある。
何とかできないかと考えました。
職員が一人で、男女や体型関係なく、スムーズに移乗ができる方法がないかを。
移乗介助の確認と分析
「●●さんの移乗、大変。大柄だし。」
なんて声はよく聞いていましたが、
どこがどう大変なのかを調べるため、普段どのように移乗してるかさりげなく見ました。
角が立たないよう、二人介助対応なのを利用し、相手の介助方法を見て、雑談の中で何が大変かを調べたのです。
そこでわかったのは、
仰臥位になってる状態からそのまま強引に起こし、
その結果身体が滑ってベッドに浅座りになるため身体を支えながら利用者を抱えて移乗するという状況でした。
それじゃあ確かに大変で、
職員は腰に負担がかかるし、
利用者は恐怖心が生まれてなおさら身体に力が入るよなと思いました。
でも、身体を支えれば一応座位はとれるし、力は弱いが職員に掴まることもできている。
それなら何とかなるかもしれない!
介助方法の見直し
こうして情報を集め、アプローチに入りました。
移乗動作を小分けにし、
起き上がり、
端座位、
立ち上がり
移乗
と分けて、それぞれの介助方法の見直しにかかりました。
起き上がり介助の見直し
仰臥位から「エイヤッ!」と起こそうものなら、
余計な力を使うことになります。
ここは基本に立ち返りボディメカニクスを活用です。
まず、身体をベッドの端に寄せます。
体格がいいので、力で無理やり動かすのはご法度です。
高確率で腰にきます。
また、引きずることにもつながり、皮膚トラブルの懸念もあります。
ここは文明の利器の出番です。
スライディンググローブです。
これを使って身体を動かします。
ない場合は大きいビニール袋でも代用できます。
(興味ある方、ここから買えます⬇️)
(私が使ってるのはこちら。50枚入り⬇️)
身体を端に寄せたら、側臥位にします。
中途半端な側臥位ではなく、完全側臥位くらいに考えて下さい。
そして可能な範囲で両足を曲げ、頭を起こして端座位にします。
こうすることでスムーズに起き上がりができ、ベッドの浅座りによる不安定さも防げます。
移乗介助の見直し
端座位にしたら移乗に入ります。
この時、力まかせに持ち上げようとしてはいけません。
ここも、文明の利器に頼ります。
スライドシートやスライドボードです。
⬇️こんなのです。
ない場合は大きいビニール袋で代用できます。
ただしベッドと車椅子の隙間を丸めたタオルか何かで埋める必要があります。
起き上がりの時点でベッドに深めに座っているはずなので、身体を傾け、スライドシートやボードを敷きます。
職員に掴まってもらい前傾姿勢をとり、後はそこを滑らせるように移乗すればOKです。
ちなみに、ボードもシートもビニール袋もない場合は、
前述した方法で端座位をとり、足の下にタオルを敷きます。
そして前傾姿勢をとり、敷いたタオルを動かす(滑らせる)ようにして移乗しました。
(伝わるかな…)
大体、こんな感じでやってみました。
介助方法の検証
自分だけできてもだめなので、
前述した介助方法を、色々な職員にやってもらいました。
中には力で持ち上げることに慣れてしまっており、
「慣れないと大変」
という意見もありましたが、
ほぼ全員が一人介助で移乗できたうえ、
「教えてもらった通りにやったら一人でもできました!こんなスムーズにできるんですね!」
といった嬉しい感想も貰えました。
これは嬉しかったですね。
こういうところにやりがいを感じるなーって思いますよ。
後はこういう結果をカンファレンスに出し、正式採用です。
勿論、定期的に振り返りは必須です。
利用者の状態は日々変わっていくので。
おわりに
利用者の状態が変わったからと安易に対応を変える前に、
どこが大変で負担がかかっているかを調べ、
そこにアプローチの余地はないかを考えていく必要があると思います。
でないと、
利用者の「できていること」「可能性」
を知らず知らずのうちに奪ってしまうことになるかもしれません。
でも、無理はしないで下さい。
根性論で何とかやれているようなやり方ではいつか破綻します。
この記事はほんの一例ですが、何かの役に立てればいいなと思っています。
移乗について別記事もありますので見てみてください。⬇️
最後に移乗に関して参考になり、勉強になった書籍を紹介します。
写真でわかる移乗・移動ケア
介助が困難な人への介護技術