「家族のような関係性を」
「家庭的な雰囲気の施設」
こういったキャッチフレーズの事業所を見聞きしたことはないでしょうか。
一見柔らかい印象で、優しい雰囲気があるかもしれません。
しかしこういったフレーズは、よほどしっかりした理念と具体性のある取り組みが周知されていないと、優しいどころか危険な可能性をはらむことがあります。
それを以下に書いていきます。
家族・家庭的という言葉がもたらす弊害
家族のような関係・家庭的な雰囲気とはどういものでしょうか?
私が経験してきた、見聞きしてきたものは、
- くだけた言葉使いや態度
- 私服のため職員なのか家族なのかわからない格好
- 私物を持ち込みすぎて管理が雑
- 職員と利用者の距離が近い
こういった感じがほとんどでした。
そこに更に、
「家族のような関係・家庭的な雰囲気とはどういうものを指し、どう取り組んでいるのか具体性がない」
これがありました。
これが自分の家、自分の家族なら問題はないでしょう。
ですが、赤の他人相手にこれではかなり問題があるように思えます。
言葉使いの乱れから介護の乱れになる
「家族は敬語を使わない」
「家庭なんだから堅苦しい雰囲気はそぐわない」
「親しみやすさがある」
などと、くだけた・乱れた言葉使いや態度を正当化するようになります。
具体的な理念・取り組みのない状態で、言葉や態度をただ乱しただけのものは、徐々に仕事が雑になり、そして無意識に利用者に不適切ケアをすることにつながる可能性があります。
過去にも言葉使いについての記事を書きましたが、乱れた言葉は親しみどころかデメリットしかないと考えています
あくまでもサービス提供者と利用者という関係である
我々は言ってしまえば人様を相手にする「契約に基づいたサービス業である」わけです。
家族になる必要はないし、なれないと思っています。
それに、仕事として顧客と関わる以上はビジネスマナー・礼儀・社会人としてふさわしい立ち振る舞いが求められます。
家族だ家庭だと、その「言葉だけ」を前面に出した場合、
利用者(顧客)とサービス提供者との距離感がめちゃくちゃになります。
当然、顧客相手にすべき態度もめちゃくちゃになります。
社会人として顧客に対する立ち振る舞いもそうですが、
下手すると仕事とプライベートとの線引きすらあいまいになり、職員のプライベートに利用者のこと(買い物や話し相手など)をする羽目になります。
これがサービスを提供する側の「ふさわしい立ち振る舞い」といえるのでしょうか。
我々は利用者と家族にはなれないし、家庭をつくることもできない
利用者は、その施設を選んで入所はしてますが、その経緯は様々です。
その施設の理念や取り組みを気に入ったケースもあれば、
手当たり次第申し込んでたまたま空きが出た施設に入所したケースもあります。
更には、入所するまでどの部屋、フロア(ユニット)に決まるかわからない。
簡単に家族と言えるのか
周りの利用者は知らない人。場合によっては寝たきりや認知症などでコミュニケーションすらとれない場合もあります。
そして職員も当然、知らない人。
そんな中で、
「皆さん家族です!我々職員も皆さんを家族のように思って対応致します!」
なんて言われても受け入れられないし、
「じゃあ具体的に何をするの?」ってなります。
施設はあいのりでもテラスハウスでもないんです。
たまたま集まっただけなんです。
そこからコミュニティを形成するのは本当に大変です。
しかも、それを利用者が必ずしも望んでいるとも限らない。
入所理由も事情も様々。利用者一人一人が送りたい生活も様々。
ワイワイやりたい人もいれば一人で静かに過ごしたい人もいる。
家族になることを押し付けるなと思います。
簡単に家庭と言えるのか
利用者にはそれぞれ家庭があり、歴史があります。
そこには簡単に踏み込めるものじゃありません。
その家庭の歴史・ルール・常識・関係性・地域性などは様々です。
そんな各家庭の利用者を一堂に介して、
「一つの家です!」
なんて簡単に言えないんですよ。
元々が違う生活様式なんだから。
じゃあ、いきなり隣近所の人たちとひとつ屋根の下で暮らせますか?
少なくとも集団生活にルールは必要でしょうよ。
あくまでも「施設」なのである
いくら家庭的だ家族だとうたっても、制度上は「介護施設」なんです。
そこには当然関連法案があり、指定基準もある。
家ではできたことをそのまま施設でも…とは簡単にいきません。
例えば家であれば、昨日のおかずを食べたり、多少期限の切れたものを食べても別に問題ないでしょう。
転んだりぶつけたりしてかすり傷を作っても大した問題にはならないでしょう。
生活に「緩さ・ルーズさ」があってもいいでしょう。
ですが、施設ではそうはいきませんよね。
できることとできないことがあるし、何かあれば責任をとらなければならない。
やらなければならないことが沢山あるし、制度上の縛りもあります。
ここの線引きをしっかりしていないと、
「家では●●だったからできるでしょ!」
と主張する利用者や家族、
法を無視した取り組みを強いる上司や管理者
などがでてきます。
そして何か起これば実際に対応した職員が責任を追及されます。
利用者は希望を叶えてもらえない、
職員は心にも経済的にも社会的にも傷を負う。
そんな危険性をはらんでいるのです。
おわりに
繰り返しになりますが、
私は仕事として顧客と関わる以上はビジネスマナー・礼儀・社会人としてふさわしい立ち振る舞いが求められると思っています。
なので、利用者との一定の距離感や線引きは必要だと思います。
ただ、「家族」「家庭的」を一律に否定しているわけではありません。
中には利用者のニーズを上手く拾い上げ、より良い生活に向けて取り組んでいる事業所もあるとは思います。
ただ、具体的に何をどう取り組むかを明確にしていなく、耳触りのいい言葉だけが一人歩きしているような場合は、ここに書いたような危険性がある…ということを言いたいのです。
何事もそうですが、目的と理念を具体的に。
こうしておくと職員も自分が何をすべきか見えやすくなるし、
利用者や家族もその施設のことをより知ることができると思います。