在宅介護、施設介護問わず介護者を悩ませる
「帰宅欲求」
デイやショート、入所施設で
「帰りたい」
と落ち着かなくなったり、
家にいるのに
「家に帰る」
と玄関を出て行くなんていうケースもあります。
「ああ、大変だ!見てられない!!」
と思う前に、
「どうしてそういう訴えがあるのか」
考えてみたいと思います。
なぜ帰宅欲求は起こるのか
これは諸説あるうえに人によって異なる部分はありますが、
知らない場所にいることの不安感
周囲が知らない人ばかりいることの不安感
かつて自身の役割(仕事や家事など)があり、それをする時間だと思っている
不愉快な思いをした(職員・他利用者とも)
などが代表的なものでしょうか。
記憶障害により場所、時刻などの認識が難しくなり、時間不定で起こることもあれば、
夕方などの特定の時間帯に起こることもあります。
その人の記憶のどこが壊れているかによって、
本当にバラバラです。
ただ注意しておきたいのは、
本人からすればこれらは全て「正当な理由」だということです。
だから闇雲に否定したりせず、「受容」という姿勢が大事になってきます。
何も考えずに安易に否定でもしたら、
「そんなことあるか!」と、かえって落ち着かなくなります。
当然ですよね。
本人からすれば、「真実」を言っているわけですから。
そういう本人の想いを考慮したうえで、対応を考えていく必要があります。
認知症の人の記憶の中の「家」はどこか
「家に帰る」という利用者の指す「家」とはどういうものでしょう。
生まれた家なのか。
幼少期を過ごした家なのか。
青年期に過ごした家なのか。
社会に出てから過ごした家なのか。
そしてこれまでの生活歴の中で転居や増改築はあったのか。
前述のとおり、本人の記憶のどこが壊れているかで違ってくるし、
それこそ本人にしかわからないかもしれません。
家族も同様です。
本人の記憶の中の息子、娘はいくつなのか。
出産や死別などで家族環境は変わっていないか。
そして今現在の家族の年齢はいくつなのか。
今現在の家族環境は本人の記憶の中の家族環境と変わっていないか。
ここをしっかり調べていないと、
例えば「息子に会いたい」という訴えがあったとして、はいわかりましたと息子に会ってもらったとします。
本人の中の「息子」が、幼少期の頃であった場合、当然今現在の息子の年齢も容姿も違います。
結果、
「お前は誰だ?息子じゃない!」
と、更に落ち着かなくなるばかりか、家族を悲しい気持ちにさせてしまいます。
そういうところまで考えていく必要があります。
これを本題の「家」にあてはめてみると、
本人の記憶の中の「家」が生まれた家だったとして、
今現在、その家はもうなかったとします。
(結構こういう話は聞きます)
家に帰りたいと落ち着かなくなり、家族の協力もとりつけたとして、家まで連れて行ったとしましょう。
今現在、本人の「家」は生まれた家とは違う。
でも本人の中では「生まれた家」に住んでいると思っている。
そんなズレた認識に気づかず家に連れていった場合
「ここはどこだ?ウチじゃない!」
と、混乱して更に落ち着かなくなるでしょう。
この「本人の中の記憶」を調べるのは難しいですが、
もしどうしても家に連れて行く必要が出てきた場合は、
そういった情報を少しづつ集めていくしかないのではないでしょうか。
記憶障害による認識違いが招いた利用者の混乱
私が実際に遭遇した事例を紹介します。
ショート利用中、家のリフォームをしたお宅がありました。
ショート利用が終わりリフォーム後の家へ送った時のこと。
その時の利用者の反応が、
「ここはどこだ?ウチじゃないじゃないか!どこに連れてきてるんだ!早く家に送ってくれ!」と大興奮。
家族と一緒に説明はしましたが全部は理解納得しきれていない様子でした。
家族がいたから本人もまだ納得できる部分があったのかもしれませんが、
認知症の進行度合いによってはそれも難しくなっていたかもしれません。
「家に帰る」ということの難しさを知ったケースでした。
おわりに
デイやショート、特養入所中に帰宅欲求があった場合、
帰りたいからと簡単に家に連れて行くんじゃなくて、
「家」の理解・認識は十分なのか、家族の協力は得られるのかなど、仕込みをしてからの方がいいと思います。
場合によっては逆効果のこともあります。
本人にとって、帰るべき家がそこになかった場合の喪失感、ショックは計り知れないでしょう。
物理的に家そのものが無くなったケース、
増改築や転居などで本人の記憶の中にある「家」がなくなっているケースなど、様々な事情があります。
何より、
帰宅欲求になるような不安感を利用者に与えないようにすることが大事なのかなと思います。
ただ、本人の気持ちは本人にしかわかりません。
日々の関わりの中で少しずつ情報を集め、対応していくしかないのです。
人間相手の仕事なわけですから。