介護施設、特に特養のような介護度が高い利用者が多い事業所の場合、食事をとることができずに鼻腔や胃ろうから栄養を流している利用者もいると思います。
そういった利用者を再度食事がとれるまでに至り、事故もトラブルもないまま進んだといった事例を紹介します。
食事がとれない理由
これはほんとうに様々です。
嚥下状態の低下が顕著な人、
食事の拒否が続く人、
食事をとれる体力がない人、
これらを引き起こす病気など…
ここに更に、
本人の意向
家族の意向
主治医の見解
事業所の見解など…
これらが複雑に絡み合い、今後の方向性を導き出します。
なので当然、人によって対応は様々です。
食事形態などを再考したり、エンシュアなどを処方してもらったり、経管栄養を行うことになったり。
場合によってはそのまま食事中止→看取りへ移行するということもありました。
ここでは、経管栄養になった利用者を再び食事がとれるまでにした事例を紹介します。
事例①
右麻痺で失語のある利用者。ハイ・イイエで意思疎通は可能。
器用に食事をとっていたが、徐々に食事がとれなくなってきた。
本人に可能な限りの手段で聞いてみるも首を振るのみ。
徐々に食事形態が下げられ、栄養補助食品などに頼るも、それでも食べなくて。
そしてとうとう入院。
病院で胃ろうが造設されて退院してきた。
退院後、「離床時間を作ろう!」
と、食事時間に合わせて離床してもらうが、当然自分だけに食事は配られない。
本人も自分の状態は理解していると推測されるが、他の利用者が食事をしているのをじっと見ている。
そうしてしばらく経ったある日。
「何か少しでも食べることはできないか?」
と提案。
初めは皆、「無理なんじゃ…」と思っていた。
それでも日々本人の様子を見ていくうちに、
「何か少しでも検討できることはないか?」
という考えに変わっていった。
そして、
嚥下評価、考えられるリスクの洗い出し、専門職の見解、主治医の見解、
勿論本人とその家族にも意向を確認。
初めは機能訓練指導員、看護の立ち会いの元、
ゼリーを1くちから開始。
ムセなし、肺雑なし。発熱なし。
そうしてある程度の期間様子を見て、再評価。
継続可能との判断。
今度は介護職が中心となり介助。
介助のポイント、観察のポイントなどを細かくまとめたうえで。
そうして評価と検討を繰り返し、
ゼリーからミキサー食、ミキサー食からソフト食まで形態を上げることに成功。
さすがに常食は無理だった。
この利用者、食事再開によるムセや誤嚥などがないまま経過した。
事例②
身体機能は問題ないが、認知症の進行で食事をとらなくなってきた利用者。
初めはコミュニケーションを工夫したり、
↓こんな感じで。
食事形態を変えたり、しつこく声をかけてみたり。
でも食事をとろうとしない。
そしてどんどん体重は落ち、体力も落ちた。
そうしたある日、医療職から経管栄養の提案が。
経管栄養の特徴及びリスクを説明したうえで、どうしたいかの判断を家族に確認。
家族もそれを望んだ。(本人は意思疎通困難)
結果、胃ろうを造設して退院してきた。
胃ろうとなったため栄養はきちんととれるようになった。
そのためか体力も戻り、活発に動き回るようになってきた。
そうしたある日。
食事時間になり、他の利用者には配膳されるが、当然自分だけに食事は配られない。
以前は配膳しても食べなかった利用者が一言。
「ねえ、私のごはんは?ごはんないの?」
この訴えをきっかけに皆で考え始めた。
「楽しみ程度にゼリーとかなら可能かな?」
「いや、本人甘いもの好きだし、栄養補助のプリンがいいんじゃない?」
「一度評価入ってもらって考えようよ」
などといった意見が出る。
そうして、嚥下評価、考えられるリスクの洗い出し、専門職の見解、主治医の見解などを踏まえ(事例①と同様)
ゼリーからスタート。
ムセなし、肺雑なし。発熱なし。
しかも本人自ら手を伸ばし、食べようとする。
しばらく観察して評価し、再検討。
今度はミキサー食1品を試す。
ムセなし、肺雑なし。
またも本人自ら手を伸ばし、食べようとする。
その後も評価、検討を繰り返す。
最終的にソフト食を他の利用者同様に食べれるまでになった。
しかも、それでも足りずに人の食事に手を出そうとしたこともあった(笑)
成功事例だけではない
ただし全部が全部、食事を再開できたわけではありません。
ゼリーを1くち口にしても飲み込む力がなかった人、
1くち口にした途端、痰がらみが出た人など…
こうした場合、無理せず中止し、その後の対応についても再考。
食事再開は見送られた利用者もいました。
経管になったからといって必ずしも食べれないというわけではない
経緯にもよりますが、
経管栄養など、食事がとれない利用者全てが必ずしも食事がとれないというわけではないと思います。
感情的にならない観察、
考えられるリスクと回避手段、
具体的な評価・検証方法、
他の職種との連携及びそれぞれの専門性からみる可能性、
現在の戦力で対応可能なのか、
利用者のニーズ、家族の意向、
有事の際の対応方法など。
これらを踏まえて話し合っていけば、可能性はゼロではないと思います。
こうしたきっかけは、
気づきと観察力でしょう。
専門職がそれぞれの専門性を発揮し、可能性を拾い上げる。
そうして集めた情報を元に家族や主治医との連携を図る。
中には、病院での嚥下評価が正確でなかった…なんていうこともあります。
(病院関係者の方、ゴメンナサイ)
ただしその逆も然りですが。
食事開始の判断・対応は慎重に
経管栄養ということは、何かしらの理由があって食事がとれなかったのです。
「食事がとれないなんてかわいそう!」
「経管栄養なんて…」
「きっと●●さんもご飯が食べたいって思ってる!」
というような、感情だけで動かないでください。
場合によっては食事はそのまま死に直結します。
各専門職の客観的な見解のもと、
食事がとれる可能性があると判断され、
本人や家族がそれを望んでいる場合などで、
慎重にすすめてください。
おわりに
このことを書いたきっかけは、とある事業所が、
「ミキサー食の利用者にカツ丼を食べさせた」
という事例。
その事業所のことも利用者のことも知らないので、賛否については書きません。
が、
自立(自律)支援とリスク管理をどう天秤にかけ、どこを重視していくか。
利用者、事業所、職員の安全を守れるか。
その中で利用者のニーズにどこまで応えられるか。
これらを再度考えるいいきっかけになりました。