施設での利用者の生活について、
「好きなことを続けてもらおう」
「趣味を調べてそれをやってもらおう」
「昔していたこと(家事など)をしてもらおう」
という声を多く見聞きします。
その言葉自体は良いことだと思います。
役割があることでの自信がついたり承認欲求などが満たされる
マンネリ化しがちな施設生活において楽しみや刺激になる
手先や脳の運動。また箸で食事をする・食器を拭くなど、内容によっては機能訓練にもなる
などでしょうか。
特に役割作りは個人的にとても大事だと思うし、「社会に貢献している」といった自信にもつながります。
中には見学者の案内を利用者が行なっている事業所もありました。
上げ膳据え膳な事業所を多くみてきていたため、これには驚きました。
ここに至るまでに相当な仕込み、努力、検証などを行なっていたと聞きました。
少し話が逸れました。
はじめに書いた趣味や生活習慣、好きなことなどを提供する前に、考えておきたいことがあります。
・なぜ、それらの活動が今はしていないのか。できないのか?しなくなったのか?
・現在の心身状態でそれらの活動が行えるのか。
・活動「内容」だけにとらわれていないか。
(活動の場所や他者との関わりはあったのかなど)
・その人の思い描いている活動と事業所の提供する活動で目的やイメージの違いはないか。
(仕事で計算をしていた人に対してただ計算ドリルをひたすらしてもらうなど)
こんなところです。
まず、今までしていた活動を
しなくなった
のと、
できなくなった
のでは、利用者の心理もこちらのアプローチも変わってきます。
しなくなったのなら、それはなぜなのか。
認知面の低下?
意欲の低下?
家庭環境?
それはなぜ起こった?
と、掘り進めていく必要があるし、
できなくなったのなら、
病気?
麻痺?
体力の低下?
というように、こちらも掘り進めていく必要があります。
身近な例でわかりやすく言うと、
貴方は片手に麻痺が出ている状態でゲームできますか?
自宅と勝手が違うのに家事できますか?
ということです。
気難しい人であれば、
「できないの知っててバカにしてるのか!?」
気の弱い人であれば
「もうこういうのもできなくなっちまって…」
と自信喪失
てなりかねません。
もう一つは、
当時の活動と全く同じ環境で同じものは提供できない。もしくは難しい
ということです。
例えば、
ゲームひとつとってもファミコンからPS4と幅広いですよね。
音楽だってジャンルは幅広い。
絵だって、書き物だって、幅広い。
それを、
習字が好きだという理由で
その辺のキットを渡してあとはよろしく!
とか、
音楽が好きだという理由で
延々と童謡を聴かせる
とか、
家事をしていたという理由で
延々と茶碗拭きををさせている
など、
よく調べもせずに、
「とりあえず今あるものでそれっぽいのやっときゃいいだろ」
的なものはただの自己満足になりかねません。
習字を通して友人と交流したり、コンテストなどに応募することが好きなのかもしれない。
(ただ書かせておけばいいってことじゃない)
フロアで音楽を聴くのではなく、自分のプライベートスペースで「自分の好きな音楽を」ゆったりと聴くのが好きなのかもしれない。
「家族のために」家事をすることが役割として根付いてるのかもしれない。
(なんで見ず知らずの家の家事しなきゃならないんじゃいっ!て思いますよね)
それともうひとつ。
「部屋で寝てばかりいると廃用症候群になるから起きてもらおう」
「なるべく起きてもらって他の利用者と話をしてもらおう」
こんな意見もよく聞いてきました。
この意見を出すにあたって、
・利用者のこれまでの生活習慣はどうだった?
・元々一人で過ごすのが好きなタイプじゃなかった?
・家族親戚友人知人ならともかく、たまたま同じフロアで過ごしている利用者に、「話をしてもらおう」なんて言って、話が盛り上がるの?それで話が盛り上がるって、相当なコミュニケーション上手じゃない?
・部屋に戻りたがるのは、昔に比べて体力が低下してるかもしれないよ?
こういう所、ちょっとでも気にかけたんですか?
何でかわかりませんが、それなりに長くこの業界で働いてきて、
「一人で過ごす」
「部屋で横になる」
ていう利用者を、状態(何の?)が低下するだの何だので、
半ば強制的に他の利用者と話をさせようとしたり、
半ば強制的に離床して過ごしてもらおうとする職員が一定数いました。
・利用者のそれまでの生活習慣
・嗜好
・昔と今との体力の差
・利用者同士でコミュニケーションをとれる関係性があるか。またコミュニケーションがとれる環境か。
これらを知ろうとせず、
一人は良くない
日中寝て過ごすのは良くない
などと安易な考えで一律に対応するなど、専門職の考えかって思います。
そういった背景を調べず活動そのものだけにとらわれて、
こちらの都合のいいような解釈で活動を提供(強要)することにならないよう気をつけなければなりません。
現在の心身状態を踏まえ、難しい部分をサポートすればできるのか。
そして、
活動を通じて
何を求めているのか、
何を楽しみにしているのか、
何が生きがいなのか。
活動を提供する前に、
じゅうぶんな情報収集、もしくは継続した情報収集を行っていく必要があると思います。