介護施設(施設だけに限りませんが)では、
事業所や部署、ユニットやフロアで独自のルールがあると思います。
この多々あるルール、中には
「何でこういう決まりなの?」
というものも多く、理由もわからないままやらされていることもあると思います。
理由のないルールは、現場の混乱や業務の圧迫、更には利用者の観察力の低下や思い込みを招きかねません。
つまり、介護の質が落ちるということにつながります。
以下、私の経験を交え書いていきます。
根拠に基づくルールの必要性
本来、我々のような仕事は介護保険法をはじめとする関連法案にのっとり業務を行う必要があります。
また、利用者の対応にしても、ケアプランにのっとり対応を行い、介助ひとつひとつに対しても、
「●●さんは△△の状態だから□□の対応をする」
といった、
「なぜ、この対応をするのか」という「根拠」がなければならないと思います。
これが不明確だと、職員それぞれがバラバラの意識、方向性のまま介助に入ることになり、
結果としてバラバラな介助方法、バラバラな仕事の仕方になり、
無意識のうちに法律違反をするリスク、
利用者のニーズ、目標を達成できない、
不適切な介助によるADL.QOLの低下
組織・チームがバラバラになり職場環境の悪化につながる
などにつながります。
こうなると、もはやそのフロアや部署は崩壊していると言っても過言ではないでしょう。
そんな所、退職待ったなしです。
根拠のないマイルール
その部署やフロアごとの独自のルールはあると思いますが、
「マニュアル」
ではなく、
「マイルール」
になっていることがしばしばあります。
以下、その例を紹介します。
私が経験した根拠のないマイルール8例
①指定された時間に一斉に水分提供
10時は水分の時間、16時は水分の時間…。
などと、水分提供を指定された時間のみ行い、それ以外の時間はすすめない。
逆に言えば、この時間に何がなんでも飲ませようとし、飲まない利用者がいたら職員を責める。
利用者によっては、これ以外の時間にすすめたほうがよく飲んだり、
元々あまり水分をとる習慣がない利用者もいます。
ここを調べることもせずにただ
「この時間に規定量を飲ませるルール」
と、対応を強要するユニットがありました。
これでは、個々の嗜好や習慣、及び水分アセスメントはおろか、
それに付随する
覚醒状態、排泄状況、内臓への影響などの考えに行き着かずに
「日中の傾眠」「夜間の不眠」「不穏」
などと記録に書かれたり、
便秘による下剤乱用をされたりします。
②介助方法を検討もせず、声かけのみで対応しようとする
これは認知症などでコミュニケーションが難しい人に対しての場合がほとんどです。
食事を食べようとしない、トイレ誘導を拒否するなどの利用者。
なぜ、そういう行動をとるのかを調べようともせず、
ただひたすら声をかける。
そのうち、声かけに応じないもんだから口調が強くなる。
それでも応じないから半ば無理矢理介助する。
声かけだけが誘導方法じゃないでしょうよ…
と思い、
「アプローチ変えてみたら?」
と提案したが、
「声かけが大事だから!そういう決まりだから!」
との返答。
その利用者は、
「介助拒否がある人」「意思疎通ができない人」
という風に決めつけられてしまい、
対応もそういった対応になってしまいました。
③全員一律での排泄介助
定時のトイレ誘導やオムツ交換。
それは別に否定しませんが、
尿量が気になったり、コールが来るなどで定時以外に排泄介助に入ると、
「まだ時間じゃないから!」
とか、
「●●(利用者)さん、もっと早く(後に)言ってよ!」
などといった注意をされる。
「いや、出るんだからしょうがないでしょうよ」
と、利用者からも声があがる始末。
④立てない人を無理矢理抱えて移乗
座位も満足にとれない人を無理矢理一人で抱えて移乗する風潮。
明らかに職員にも利用者にも負担がかかったいる。
何でこの対応なのか?対応見直したほうがいいんじゃないかと言ってみるが、
「この人、前からそういう対応だから」
と一蹴。
それでいて、腰が痛いだの肩が痛いだの言う職員多数。
そのうち骨折起こしますよ。
⑤一人で介助できるにも関わらず二人介助
④と似てますが、移乗や入浴介助で、
一人でできそうなのにわざわざ二人で対応している。
理由を聞いたら、
「前に介助中に傷ができたから、二人でやる決まりになってる」
と。
なるほどわかった。
でも、その当時からかなり月日も経ってるし、利用者の状態は大きく変わってるし、職員の数も人も変わってるよ?
不必要な二人介助をしている分、別のところに人が割けなくなってますよ。
⑥家庭浴(一般浴)が使えるにも関わらず特浴(臥床浴)
浴槽への移乗は軽介助で問題なく行えるのに、なぜか特殊浴槽での入浴をしている利用者。
理由を聞いても、
「前からそうだったから」
「何となく危ないから」
との返答。
医師や機能訓練指導員などから禁忌とされているわけでもないのに…
⑦職員が決めた時間になるまで起こさない
何となく決まってる離床時間。
それも、全員一律同じ時間。
体力があったり、起きたいというアクションがあったり、臥床してると体動でベッドから転落する可能性があったりする場合なら、早めに起きてもらってもいいようなもの。
それを、
「まだ早い。起こす時間じゃない」
と言って渋い顔をし、
後から取ってつけたように、
「お尻の状態が悪くなる」
と言ってみたりと。
明確な理由はありませんでした。
⑧全員一律でベッドに寝ている時は常時頭部ギャッジアップ
この件については過去に書いたブログをご覧ください。
病気などで特別な理由があるわけでもないのに
臥床時、特に経管栄養の利用者は、常時ベッド頭部をギャッジアップしている。
これを現場で見たとき、真っ先に疑問をぶつけたのですが、
「前からこの対応だから」
しか言わず、
なぜそういった対応が必要なのかを知っている職員はいませんでした。
個人的に弊害しかないと思っています。
なぜマイルールが蔓延るのか
長年介護の世界に身を置いて、なぜこういったことが起こるのか考えてみました。
①ルール決めした人が現在その職場にいない
いちばん始めにルール決めをした人がその職場にいなかったりし、その理由がわからないままルールだけが残ったパターン。
おそらくは、ルールを決めた時は明確な理由もあったのでしょうが、
月日が流れ、職員も入れ替わっていくうちに、その、「理由」まで周知しきれず、ルールだけが残ったのでしょう。
「●●するというルール」と言って説明する方がとりあえずは職員は従うからラクですからね。
②ルールを出しっぱなしで振り返ってない
事故が起こったりするなどで一時的に対応を変えたが、その後の振り返りを誰もせず、ルールだけが残ったパターン。
利用者の状態が変わっても、その意識だけが根強く残り、変えようとすると「決まりだから」という謎の抵抗勢力が出てきます。
だから、寝たきりで動かなくなってもセンサーマットが敷きっぱなしだったりするのです。
根拠のないマイルールは見直しを
理由のわからないルールを盲目的に行なっているのでは、上記の事例にあげたような不具合が起こり、結果として介護の質が落ちることにつながります。
「なぜ、この対応なのか」がわからないなら、やっている意味はないと思います。
理由がわからないルールなら一度会議などで検討したほうが良いと思います。
「今の●●さんの状態で、昔からやってるこの対応は適切?」
「このルールを決めてから利用者も職員も入れ替わってるよね。今のこのユニットで、●●のルールって必要?」
などと。
ただしきちんとした理由や根拠があるなら異論はありません。
ルールの説明より根拠の説明を
職員に決まりごとを説明する時、ついつい「決まりごと」だけを説明しがちです。
確かに大なり小なりルールは沢山あるし、それを伝えるのは大変でしょう。
しかし利用者に関わることなら特に、
根拠の説明
は大事です。
気づきや介助の見直しにつながらず、
利用者の現在の状態にそぐわない介助を続けてしまうことがあります。
根拠がしっかりしていれば、そこを基準に利用者に合わせた対応を考えていくことができます。
おわりに
根拠のないマイルールがはびこると、利用者の状態にそぐわない不適切ケアの蔓延や、
不必要な業務の手間などがおこります。
せっかく色々な世代や経験者、色々な職種がいるのだから、
定期的にルールは見直す必要があると思います。
「なぜ、このやり方なの?」
この疑問をもつことが、業務改善につながり、
利用者の「自立(自律)」につながると思います。
(あるんですよね、そういう疑問をもつことを「偏屈」とか、「めんどくさい人」とか、「決まりに従わない」とか言ってまともにとりあってくれないことが…)